並び始めてしばらくすると、後方でざわめきが起きた。
「ちょっと!これ私の身分証明書よ!」
どうやら揉め事のようだ。
状況を確認しようとするが、人の頭が邪魔でよく見えない。
ラザクの身長は170cm、この国の成人男性の平均身長は173cm程なので、ラザクの背丈はやや低めだ。
「どうかしたのか?」
タザがようやく兵士達から目を離し、騒ぎが起きている方を見る。
さすがに190cmあるタザは良く見えたようで、少し間を空けた後言った。
「……ありゃ"日落ち"だな。」
ラザクは聞き慣れない言葉に首をかしげる。
「"日落ち"って何だ?」
しかしタザはラザクの質問には答えず、緊迫した表情で言った。
「まずいぞ、あの娘、身分証明書を取られた!」
タザが言い終わると同時に、白い布で全身を覆った者が列から飛び出し、凄いスピードで駆けて行った。
ざわめきは大きくなり、身分証明書を奪われたと思しき少女は何かを叫んでいるが、周りの声でよく聞こえない。
「追うぞ!」
そう言うや否や、タザは列を抜けて走り出す。
「おい、タザ!」
ラザクもつられて後を追った。
走りながらタザの背中に向かって叫ぶ。
「"日落ち"って何なんだよ!」
「後で説明する!今はとにかくあいつを捕まえるぞ!」
タザは振り返りもせずに言った。
ラザクは訳が分からないまま、タザについて白い影を追う。
「君達!どうするつもりだ、戻って来い!」
後ろで誰かが叫んでいるのが聞こえたが、構っている余裕はない。

