「戻ろう。 ここは寒い」
「……」
「1時間目が終わるまで、どこか暖かいところで──」
「YUKI」
真っ直ぐに彼を見つめ、その口を右手で塞いだ。
突然のことにYUKIは驚いた顔をしたけれど、そのままの状態で私を見ている。
私の言葉を、待ってくれている。
「私は、雪村 秀一さんのことが好きです。
叶わないとわかっていても、ずっとずっと好きでした」
なんでこんなことを言ってるのか、自分でもよくわからなかった。
だけど、言わなきゃいけないことだと思ったんだ。
──『1歩引くんじゃなくて、1歩前に出ればいいと思う』
頭に浮かんでいたのは、健二さんの言葉。
あれは健二さんがYUKIに向けて言った言葉だったけれど、それでも今、私はその言葉を思い出していた。
「秀一さんはいつも1歩後ろから私たちを見て微笑んでいるし、私はそんな秀一さんを見てるのが好きだった。
でも、本当はもっと秀一さんに近づきたかった。 もっとそばで、笑っていたかった」
「……」
「だから私、1歩前に出るよ。 ううん、1歩じゃなくて、もっともっと近づくよ。
前に出て、後ろに下がってしまった秀一さんの手を引っ張っていこうと思う」
──『クリスマスん時、お前と一緒に笑ってたYUKIはスゲー楽しそうだった。
YUKIがあんな風に笑うなんて、俺が知る限りは一度もなかった。
多分アイツはお前のことが好きだと思う。 友達以上に想ってるはずだよ』
フジヤマの言葉を思い出しながら、左手をYUKIの手に重ねる。
「私はまた、楽しそうに笑ってるYUKIの顔を見たいんだ」
──『アイツはいつも、1歩引いたところから全体を見てる奴だろ?
自分の気持ちとか表情を隠して、周りに合わせて笑顔を作ってる』
──『でもね、あさひちゃんならアイツの全部を引き出してくれるんじゃないかって思うんだ。
だからこそ二人をくっつけたい。 俺は、雪村の笑った顔……自然と出た笑顔がすげー好きなんだ』
私も健二さんと同じ。ううん、健二さん以上に好き。
YUKIの自然と出た笑顔が、大好きなんだ。



