名前……の、呼び方……。
「俺のことはいまだに『YUKI』で、宇田川のことは会ったその日から『健二さん』だろ?」
「そ、それはっ……健二さんは宇田川さんの弟だから、その……名字で呼んだら紛らわしいんじゃないかと思って……」
「俺も、ユキと呼ばれてる人の弟なわけですが?」
「うっ……」
真っ直ぐに私を見てくる瞳が、なんか怖い……。
「あの……YU…ゆ、雪村さん……」
「それは名字」
「うぅ……」
……YUKIのことを、名前で呼ぶ。
シュウ。
秀一さん。
たったそれだけのことが、なかなか言えない……。
「ハァ……」
無言が続く中で本鈴が鳴り、それとほとんど同時にYUKIがため息をついた。
「……馬鹿みたいだな、俺。 ていうか馬鹿だ」
困ったように髪をかき上げたYUKIは、また空を見て微笑んだ。
「名前で呼ぶとか呼ばないとか、そんなことにムカついてるなんて、小さな子供みたいだ」
「YUKI……」
「顔、つねってゴメン。 俺はもう大丈夫」
とても寂しそうな、悲しそうな笑顔。
……そのあとYUKIは、小さく息を吐き出してから私を見た。
その顔は、普段と何も変わらないものだった。
苛立ったり、悲しそうだったり、寂しそうだったり……そう言ったものが消えた、いつものYUKI。
……作られた、笑顔……。



