でも声を出したりすることは出来なかったから、そのまま健二さんに抱き締められたままそこに居るしかない。
『だけど……には……ない…』
……YUKIは、なんて言ってるの……?
「それ、俺に言うんじゃなくてあさひちゃんに言ったらいいんじゃない?」
健二さんが、そっと私の体を離した。
距離が遠くなってしまったから、電話の向こうのYUKIの声は完全に聞こえなくなる。
「1歩引くんじゃなくて、1歩前に出ればいいと思う」
その言葉のあと、健二さんは『うん』とか『そう』とか『あぁ』とか、そんな単語ばかりを並べていた。
そして、『じゃああとで』というのを最後に通話は終了。
私を見た健二さんは、ニコッと笑ってから頭を撫でた。
「きっと大丈夫」
「え……あの……」
「咲良ちゃんと雪村なら、絶対に大丈夫だから」
咲良ちゃん。
私のことをそう呼んだ健二さんは、ひらひらと手を振って去っていった。
「あっ……」
彼と入れ替わるようにやってきたのは、メガネをかけた男の人──紛れもなく、YUKIだった。



