YUKIが、メガネをクイッと上げたあとに私を見た。
「宇田川なら咲良を幸せにしてくれるよ」
「……っ……」
「まだ付き合ってないのなら、付き合えばいいと思う」
そう言ったYUKIは、多分微笑んでいると思う。
だけど私は、その顔をしっかりと見ることが出来なかった。
だって、『付き合えばいいと思う』だなんて……そんなことを言うYUKIの顔なんて、見たくなかったから……。
「……私が好きなのは、健二さんじゃないよ」
周りの雑音にかき消されてしまうほど小さな声で言う。
「……私が好きなのは、YUKIだよ……?」
……だけどその言葉は、YUKIには届いていない。
YUKIは私の声に気付くことなく歩みを進め、私はゆっくりと歩みを止める。
「……YUKIの、馬鹿……」
「え?」
少しだけ離れた私を振り返って見たYUKIは、不思議そうに首を傾げている。
……私の声は、本当に何も聞こえていないんだ。
「……馬鹿って言ったの。 この、馬鹿っ」
今度はハッキリと聞こえるように言って、そのあとに、YUKIの肩をバシッと叩いた。
「先行くからっ。 バイバイッ!!」
その言葉とともに、私は走り出していた。



