座ったあと、健二さんはカバンの中から数学の教科書を取り出し……それを開いた数秒後には、夢の中。
この人は、いったい何をしに来たんだ……。
「咲良、何 読むか決まってる?」
「あ、ううん全然。 YUKIはどうするの?」
「俺も決まってない。 暇だったからフラッと来てみただけ」
「そっか、私も同じ」
そんなことを言いながら、私たちはクスクスと笑う。
そして、そのあと。
「宇田川放置で帰っちゃう?」
「え?」
「たまには二人で電車に乗ろうか」
ドキッ……。
YUKI、凄く優しい顔してる……。
私たちはいつだって笑い合って過ごしているけれど、こんな風に優しく笑うなんて珍しい。
「えっと……あの……」
心臓がドキドキと大きな音を立てて、顔がだんだんと赤くなる。
うぅ……どうしよう……。
「あの……その……さすがに放置はアレなんで……健二さん起こして、みんなで電車に……」
「じゃあ、一応声はかけるけど。 でも、多分コイツは起きないよ」
健二さんの隣にそっと近づき、彼の耳元で何か言うYUKI。
健二さんはそれに少しだけ反応し、まるで『バイバイ』と言ってるかのように小さく手を振った。
「ということで、帰ろうか」
ニコッと笑うYUKIに手を引かれ、私は到着したばかりの図書室をあとにすることとなった。
……いったい何のために来たんだ、私。
そう思いながら、ただただ歩みを進めていった。



