「もしかして、貴方が全部お願いして用意してもらったのですか?」
「・・・」
無言の肯定。
なんだか憎めない人だ。
「ありがとうございます!とても助かりました」
「・・・礼なんていりません。お早く」
よほど急がなければならないのか、ゆのを急かす言葉ばかり言ってくる。
「待って!せめて貴方の名前を教えて!」
「一介の警備兵の名前など、お覚えなさらなくてもよいかと」
「いいえ、私は貴方に感謝しているし、今、名前を知りたいの」
ゆのの真っ直ぐな漆黒の瞳に捉えられ、警備兵は仕方なく答えた。
「・・・パルシオン」
「パルシオン?」
「・・・そうです、さぁ、お早く」
やっと名前を知れたと思ったら、あっという間に部屋から出された。
後宮を出て裁判所へと向かう。
後宮へと連れて来られたときは、もっと兵隊の人数が多かった。
「ねぇ、パルシオン・・・。どうして貴方だけなの?」
「・・・何がですか?」
きっと分かっているだろうに、そんな風に質問してくる。
「もしかしたら私が逃げ」
「貴女様は逃げませんよ。さぁ、こちらの扉です」
パルシオンに促されるままに、ゆのは裁判所へ足を踏み入れた。
