恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

「うん、何とか…」
「春乃っ、春乃っ!」
父、そして父に脇をかかえられた母がやって来た。ようやく意識を回復したらしい。二人とも私の目の前に来ると腰を下ろし、心配そうに手や肩をなぜた。
「体は大丈夫か?」
「うん」
「さあ、この場はあの人に任せて逃げるのよ。ここにいては危ないわ」
母は行った。すると陰陽師がミチカをしかと見すえたまま、私達の方へ足早にやってきた。ミチカは苦しげに顔を歪め、制服の胸のあたりをわしづかみニラんでいる。
 陰陽師は側へ来ると、私達の目線合わせるよう背を向け床に片膝を付き、小声でつぶやいた。
「ここから出てはいけません。かえって危険です」
「なっ、なぜですか?ふつうは側にいた方が危ないじゃないですか」
「おっしゃる通りです。ですが、今は状況が違います。その少女に、あの悪霊が取り憑いているのです。浄霊していないのに逃げても、またすぐ追いつかれてしまうでしょう。同じ目に遭うだけです。いいえ、私に浄霊の依頼をしてきた事から判断して、ヘタをすればその少女は命を落とすかもしれない」
「そ、そんなことは…」
「いいですか、お父様。私に頼ってきた言う事は、皆さんは浄霊するすべを知らないと言う事ですよね。そんな状況で外へ飛び出して、もし私の助けが間に合わなければ、少女は必ず魔界へ落ちてしまう。落ちると助けられないかもしれない。魔界は本当に恐ろしいところです。私はきちんと修行を積んだ身ですが、助ける確約はできません。ですから、ここで必ず食い止めなければならないのです」
「そうですか、そうなんですか…わかりました。あなたの言う通りにします。ですから、必ず助けて下さい。春乃を悪霊から救って下さい!」
父は陰陽師にしがみついた。母は床に頭をつけ、土下座した。私も森田も深く頭を下げた。今、陰陽師に頼る以外方法はない。頭を下げるくらい、たやすくできた。