恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

森田は声高に叫んだ。私はハッとして、もう一度彼の顔を見た。陰陽師と呼ばれた彼は視線が合うと、『わかった』うなずいた。どうやらわざわざ来てくれたらしい。するとミチカがチッと舌打ちした。悔しそうに見える。
 陰陽師は足早に魔界の入り口へ近寄ると、左手の人差し指と中指を口の前で立て、ボソボソと小声で呟きだした。呪文のようだが、何を言っているのかわからない。外国語をしゃべっているのかとさえ思う。
 ふいに魔界の住人の手は、先ほどよりも激しくウネウネとうねりだした。もがいているように見える。苦しいのかもしれない。
『ソンナ奴ノ言イナリニ ナルナ!オマエ達ハ魔界人ダ!陰陽師ゴトキニ負ケルナ。引キズリコンデ シマエ!』
ミチカはまたもカツを入れるよう叫んだ。だが、魔界の住人達は陰陽師を襲おうとしない。数分間ウネウネしたかと思うと、穴の中へそそくさと逃げ込んでいった。
 すると穴は、床の色であるアイボリーの絵の具を塗り重ねたかのように、すーっと消えていった。今まで穴が開いていたとは、とうてい思えなかった。
 ミチカは目を大きく見開いたかと思うと、わき起こる怒りを表すよう、ブルブルと体を震わせた。
『待テ、待ツノダ オ前達!』
「おいてきぼりをくらって寂しいか、悪霊よ」
陰陽師はジリッと前へ一歩進んだ。キリリとミチカをにらむ視線は、ものすごい迫力だ。私まで怖くて震え上がりそうになる。
「私はそこいらにいる霊能力者とワケが違うぞ。お主くらい、一瞬で地獄へ落とせる」
『ホザケ!私ノ怨念ハ、半端デナイ。春乃サン共々、魔界ヘ道連レニシテヤル!』
「ならば、少々私の力を見せてしんぜよう」
陰陽師はミチカをジイッと見つめたかと思うと、再び口の前で指を立て、何やら小声でつぶやきだした。
 するとミチカは私の手を放し、胸をかきむしりだした。どうやら陰陽師の呪文に苦しんでいるようだ。
 私はヨロヨロしながら、ミチカから離れた。森田も後をついてくる。逃げ道にしようと思っていたドアのところまで来れば、寄りかかり、ズルズルと腰を下ろした。恐怖にさらされた心はクタクタに疲れ、とても立っていられなかった。
「大丈夫?今川さん」