恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

「ううーっ、ううーっ!」
森田は口を真一文字にして食いしばり、激しく顔を左右に振って魔界の住人の手をはずそうとする。だが、できない。キャシャな見た目とは裏腹に力は強く、しっかりつかまれられているらしい。
 だんだん森田の顔から血の気が引いてゆく。ものすごく怖いのだ。
「やめてぇーっ!お願いだがら、やめてぇーっ!」
私は声をからさんばかりに叫んだ。目の前にいるのに何もできないのが悔しいし、大切な人の命を奪われそうで、身を引き裂かれるくらい怖かった。
 しかし願いもむなしく、住人の手は森田の口をこじ開け、待ちかまえていた手をズブリと入れた。迷いは微塵もなかった。
 森田の顔は、真っ青になった。見開いた目は死を覚悟していた。
『クックックッ!イイザマダ。私ノ邪魔ヲシヨウトシタ罰ダ!』
ミチカは高らかに笑った。私はミチカをひっぱたいてやりたくなり、手をほどこうと激しく上下に振った。もちろんできず怒りと焦りがさらに募った。
(森田君、ゴメンなさい、ゴメンなさいっ!)
私はあふれる涙を止められず、泣きながら心の中で謝った。
 足下の床を見れば、流した涙でベタベタに濡れていた。このまま泣き続ければ、湖ができてしまいそうだ。
 ふいに、どこからともなく鳥が飛んで来た。ドアや窓はすべて閉まっているのに、鳥が一羽、飛んできた。
 鳥の体は、南国を連想せずにいられない、目の覚めるような鮮やかな青で、目の周りは輝く黄色、くちばしはオレンジ色だった。あまりの美しい色合いに、天国からの使いかと思った。
 しかし鳥は優雅な見かけとは裏腹に、ヒュン!と音を立てて魔界の入り口へ突き進んだかと思うと、森田の口の仲へ突っ込まれた魔界の住人の手を、くちばしで切り裂いた。
 切れたとたん、森田の口の中に突っ込まれた手はスーッと消え、他の住人の手は動揺するよう激しくウネウネと動いた。手を切り裂いたくちばしは、ナイフのような鋭い切れ味だった。