恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

(父さんのためにも生きなきゃ、母さんのためにも生きなきゃ、森田君のためにも生きなきゃ!)
魔界の入り口まで、あと一メートルくらい。それでも生きるために、逃げる方法はないか必死に考えた。
 ズルズルと引きずられ、魔界の入り口まであと九十センチくらい。それでも逃げ出す方法はないか、必死に考えた。
 さらにズルズルと引きずられ、八十センチまで近付く。それでもそれでも、逃げ出す方法はないか必死に考えた。
「クソッ!止まれ、止まれ化け物っ!」
森田は声を絞り出すよう叫んだ。まるで、体の奥底に残った力をかき集めて戦おうとするかのように。
 しかし魔界の住人は、非常にも入り口から手を伸ばしてきた。
(えっ!)
絡んだのは私の体ではなく、森田の体だった。私が言うことを聞かないから、代わりに連れて行こうとしているように見える。
 森田は、瞬く間に入り口側まで引っ張っていかれた。あと一息で落ちてしまいそうだ。だが森田は手や足ごと縛られ、逃げられない。
「ダメッ!森田君を連れて行かないでっ!」
私は絶叫した。先ほど見た警官や、女性客達の姿が脳裏を過ぎる。みんな長い手に捕まったとたん、抵抗する間もなく口の中へ手を突っ込まれ、魂を引きずり出された。そしてそのまま、魔界の奥底へ連れ去られた。
「ダメッ、ダメッ、ダメーッ!」
私は叫びながら、森田の手をつかもうとした。だが、あと少しで届かない。たかだか八十センチほどの距離なのに、指先で触れる事さえできない。すると、さらに多くの手が森田の体に絡んだ。みるみるうち体はミイラのようになり、今にも顔まで隠されてしまいそうだ。
 森田は魔界へ落ちないようにと、穴の淵で両足でふんばり、絡みついた手をほどこうともがいた。しかし手の力は強いらしく、いっこうにほどけない。顔が赤くなっていくばかり。
「グッ!」
とたん、魔界の住人の手が一本、森田のアゴと下唇をつかんだ。もう一本伸びてきた手はこじ開けようと、人差し指や中指、薬指を上唇に引っかけ、持ち上げようとする。そしてさらに一本伸びてきた手は、魂を引き抜こうと目の前で待っていた。