恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

 ただ、自分のせいで無関係な客や警官を巻き込んでしまったことを思うと、ひどく心が痛んだ。また、瞬く間に五人が魂を取られる様子を目の当たりにし、さらなる恐怖に震え上がった。このままでは私だけじゃなく父や母、森田も危ない。何としても逃げ出さなければならないと思った。
『放セェ…ソノ汚イモノ、放セェ!』
ミチカは、お守りに体を溶かされた痛みと屈辱に激怒していた。彼女の腕を見れば、骨まで見えていた。
 とたんミチカは、モデルのように細くて長い腕を上下左右に振り、つかんでいる母の手を振り払おうとした。しかし母は払われまいと、全力でしがみついている。髪を振り乱し、額に汗して。
 私のために必死に何かをしようとしている彼女を見るのは、初めてだった。私はとても嬉しかった。
 だが、幸せな気持ちは、長く続かなかった。
『グァァァァァァッ!』
「うわっ!」
ミチカはうなり声を上げ左腕を振り払い、母を左横へ投げ飛ばした。母は勢いよくゴロゴロと床を転がったかと思うと、壁際に置かれた四人がけのテーブルと椅子にぶつかり、すべてをなぎ倒した。その衝撃は激しかったようで、彼女はピクリとも動かなくなった。失神したようだ。
「母さん!」
さらにミチカは開いた左手でしがみついた父の手をつかむと、いとも簡単に引きはがし、軽々と右横へ放り投げた。
「おわっ!」
床をゴロゴロと転がった父は、受付カウンターの左横に腹をぶつけ、ダンゴ虫のように体を丸めた。小さなうめき声を上げれば苦痛に顔をゆがめ、床に突っ伏した。
「父さん!」
私はドキッとした。死んだのかと思った。
 しかし、すぐにうめき声を上げ、ほっとした。また、父のいる場所が魔界の入り口から遠い事に気づき、胸をなで下ろした。あと少し近ければ、警官や女性客のように魔界の住人に捕まり、魂を取られていただろう。化け物に捕まらないだけマシだった。