恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

「中原巡査、たぶんあの少女が通報のあった怪しい少女です!」
「そ、そうみたいだな。…にしても、あの黒い手がウヨウヨ伸びた穴は何だ。気持ち悪いなぁ…」
先輩と思われる警官が言うと、二人して顔を引きつらせながらカウンターの前を横切り、私達の方へやって来た。カウンターを見れば、先輩が顔を真っ青にして立っていた。手には、店の電話の受話器が握られていた。彼女が警察に通報してくれたに違いない。
「ありがとう、先輩!」
私は大声で叫んだ。先輩は『うんうん』と小刻みに首を縦に振った。化け物相手に人間である警官が勝てる確率はかなり低そうだが、彼女の気遣いは嬉しかった。
 とたん、二人の警官は魔界の住人に捕まった。
「うわっ!」
「はっ、放せっ!」
二人の警官が魔界の入り口脇を通り過ぎようとしたところ、住人の手が全部伸びてきて捕らえられた。二人は逃げようと大暴れしたが住人達は怪力らしく、屈強な男達を捕まえたまま放さない。あっ!と言う間に彼らの口の中へ手を突っ込めば、魂を一息で引き抜き、遺体をゴミのようにポイと投げ捨てた。魂は魔界の奥底へ連れて行った。
 床に転がった警官二人は白目をむき、すでに息絶えていた。
「キ、キャァァァァァァァァァァァッーッ」
店内にいた女性客三人は、自動ドアに向かって脱兎のごとく駆けだした。その三人をも魔界の住人は追い、簡単に捕まえた。
「いやぁーっ、はなしてぇーっ!」
「誰か助けてーっ!」
女性客も幾本もの長い手に捕らえられながら、もがいた。しかし警官達と同じように口の中に手を突っ込まれ、瞬く間に魂を抜かれてしまった。
 床にゴミのように転がされた彼女たちを見ればまだ若く、命を落とすには早すぎるように思えた。
とたん、パートのおばちゃんも、四年制大学に通うアルバイトのお姉さんも、大好きな先輩も事務所へ通じるドアから飛び出して行った。殺されると思ったのだろう。しかし、私は悲しいと思わなかった。これでみんなを殺さずにすむ。