恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ

私はうなずくと、ヨロめきながらも店の出口へ向かって歩き出した。裏口へ行こうかと思ったが、もし先回りされたら捕まる可能性が高いのでやめた。
『ドコヘ行クンデスカ、春乃サン!私ヲ置イテ行カナイデ!』
「春乃はお前のいいなりになんかならない。あきらめろ、化け物!」
『エエイ、小ウルサイ人間メ。放サナクバ、貴様ノ魂ヲ抜キ取ルゾ!』
「・・・!」
私はミチカの言葉に恐怖を感じ足を止めると、急いで振り返った。
 父はミチカの右手首をガッチリつかみ、逃がすまいとふん張っている。それをミチカは忌々しい目つきで見ていた。このままでは、ミチカは私より先に、父を魔界へ落とすだろう。悪いのは私なのに、父が犠牲になってしまう。
「ダメ、ダメッ!」
「行っちゃダメだ、今川さん。ミチカに捕まってしまう!」
「でもこのままじゃ、父さんが死んじゃう。何とかしなきゃ!」
ふいに、ミチカが私を見た。そして、ニヤリと不気味に笑った。
 第六感が『こっちに来る、危険だ』と叫んだ。私は再び店の出入り口の方へ振り返ると、全速力で走った。
 だが、店の出入り口のガラスに映ったミチカは、父を簡単に振り払うと、すごい早さで床を滑るように近付いてきた。あっ、と思った瞬間には、右手をガッチリと捕まれた。
『ウフフ、ソンナ怖イ顔ヲ シナイデ。一緒ニ魔界ヘ行キマショウ』
「は、放してっ!私は魔界へ行かないっ!」
『モウ魔界ヘノ門ハ開イテイル。ミンナモ待ッテイル。悩マズニ行キマショウ』
ミチカは私をひっぱると、逃げようとしていた自動ドアへ向かって歩き出した。
 そこにはいつの間にか、直径二メートルほどの黒い穴ができていた。穴の中からは、何十本もの黒い色をした人の手が伸び、海の中にいるイソギンチャクのようにウネウネと蠢いていた。異様な光景だ。私は身震いするほどの気持ち悪さを覚え、再び頭のてっぺんから足の先まで身震いした。とても中へ入りたくない!
 何より、入ってしまえば二度と出てこられない気がした。