―このまま終わりになんてしたくありません。だから、決めました。直接、春乃さんに会いに行きます。永遠に友達でいてもらうために…―
彼女はそう書いていた。そして今、書いていた事を実行しに来たに違いない。
 早い行動…それだけ私の魂を欲しているのだろう。
 お店の中は、異様なほど静かだった。入り口そばの両脇に、四人がけのテーブルと椅子が置いてある。右のテーブルに三人の女性客がいて、お客達は何も話さずじっとミチカを見ている。彼女はこの世に存在しないはずなのに、姿が見えているのだろう。
 一般の人に姿を見せるだけの力が、ミチカにはある。霊についての知識は無いが、先ほど聞いた森田の話しから推測して、彼女はとても強い力を持っていると実感した。
 一歩、ミチカが前へ進んだ。一歩、私に近付いた。私は押されるよう、一歩下がる。私の心臓はバクッバクッ、と変な鼓動を打った。
 二歩、ミチカが前へ進んだ。私は二歩後ろへ下がる。そして後ろに従業員専用の、事務所へ通じるドアがあるのを思い出した。ここから七、八メートルの場所にある。そこを通り抜ければ、外へ出られる。逃げる事ができるかもしれない。
 私は森田を見た。逃走用のドアを目で教えると、彼はうなずいた。私はお守りを持っていない方の手で彼の手をしっかりつかむと、一度大きく深呼吸した。
「森田君、行くよ!」
勢いよく後ろへ振り向くと、力一杯走った。後ろからは、ミチカの追ってくる足音が聞こえる。怖くて怖くて失神しそうだったが、勇気を振り絞って走った。ドアノブを握れば、大急ぎで回し開けようとした。このままの勢いで開けたらドアノブがバタン!と壁にぶつかり、すごい音が立つだろう。壁だってヘコむかもしれない。でも、他の人に気をつかっているゆとりなど無かった。
―生きるために、ミチカから逃げなければならない。―
「ぐぅっ!」
突然、背後から首を絞められた。白くて長くて細い指だ。見た目からしてミチカの指に違いない。