旬ちゃんは、どこか不安そうな顔で私を見た。
……ずっと、ずっと昔から、旬ちゃんは『いい兄貴』になろうとしてたんだ。
私は、旬ちゃんのことを『嫌い』だなんて思ったことはない。
他のみんなと同じように好きだった。 大好きだった。
……だけど旬ちゃんに対しては、いつだって『しょうがないなぁ』って言っていた。
言っていた記憶はないけれど、実際に言っていたんだと思う。
旬ちゃんが『いい兄貴』になろうとしてたのは、私の言葉のせい。
だからこそ旬ちゃんは『いい兄貴』として そばに居たんだ。
「……旬ちゃんは、本当に馬鹿だよ」
ポツリと言った私を、旬ちゃんが真っ直ぐに見つめる。
その顔を見つめ返しながら、私はゆっくりと言葉を繋げていった。
「私、小さい頃からずっと旬ちゃんのことが好きだったよ。 旬ちゃんと一緒に遊ぶのが大好きだった。
……私の口癖は、確かに『しょうがないなぁ』だったかもしれない。 でもそれは旬ちゃんが1番近くに居た人だから言ってたんだと思う。
誰よりも近くに居て、誰よりも好きだった。 だからこそ私は、旬ちゃんに“だけ”そんな風に言えたんだと思う」
……それは多分、照れ隠しのようなもので。
自分の気持ちを言葉に出して言うのが恥ずかしかったからこそ、『しょうがない』なんて言ったんだと思う。
「……私の初恋の相手は、旬ちゃんだったのかもしれない」
旬ちゃんが大好きだったからこそ、面と向かって『お嫁さんになる』とは言えなかったのかもしれない。



