吹き付ける風によって、砂埃が舞う。
それを避けるようにと目を閉じた旬ちゃんは、口元にだけ笑みを浮かべていた。
「あー……なんか、話してるうちに色々思い出してきた。
俺さ、だからこそ『いい兄貴で居よう』って思ったんだわ」
「……いい兄貴……?」
「ミサに『しょうがないなぁ』なんて言わせたくなかった。 そう言われないような男になりたかった」
「……晃太くんのような、人……?」
「うん、アイツが『母ちゃん』なら俺は『兄貴』。 『父ちゃん』って器じゃないのはわかってたから、俺はどうしても『兄貴』になりたかったんだ。
一応、1個上だしさ……ミサに尊敬されるようなカッコイイ兄貴になりたかったんだ」
そんな風に言った旬ちゃんを静かに見つめる。
……いつからかはわからないけれど、確かに旬ちゃんは、私の『兄』だった。
幼稚園や小学校低学年の頃は、あまり年齢は意識していなかったと思う。
1年生と年長さんは違うんだなっては思ったけれど、いつも当たり前のように一緒に遊んでいたから、全然気にしなかった。
……みんなで遊ぶことが無くなった頃は、既に旬ちゃんは『兄』だった。
いつも起こしに来てくれて、着替えを手伝ってくれて、重たい荷物があれば率先して持ってくれたし、学校の帰りが遅くなった時は、いつも家の前で待っていてくれた。
いつからかは わからない。
でも旬ちゃんは、確かに私の『いい兄貴』だった。
「俺は今でもみんなに『馬鹿』って言われるし、自分でも馬鹿なんだろうなって思う。
……でも俺、『いい兄貴』で居られたかな? ミサのことを、少しでも守ってやることが出来たかな?」



