時間は……そろそろ13時。
ご飯はとっくに食べ終えてるし、お茶だって飲み切りそう。
なのに旬ちゃんは携帯で何かをしていて、まったく移動する気配がない。
私は携帯で時間を確認したり、空を眺めてみたり、体育館から聞こえてくる音楽に耳を傾けてみたり……色々だ。
隣に居るのに、相変わらず会話はない。
……こんなはずじゃ、なかったんだけどな……。
私は、旬ちゃんに学園祭を楽しんでもらいたかった。
高校最後の学園祭を、笑顔で過ごしてもらいたかった。
なのに、こんなの全然楽しくないよね……。
私と一緒に居ても、旬ちゃんは笑ってくれない。
「……旬ちゃん」
久しぶりに声を出し、旬ちゃんを見つめる。
……旬ちゃんは相変わらず携帯を見ているけれど、それでも私は、ゆっくりと言葉を放った。
「このあと、高橋さんと一緒に回ったらいいんじゃないかな」
旬ちゃんにベタ惚れだという高橋 美玲さん。
昨日 見た時、旬ちゃんは高橋さんと楽しそうに話していた。
私と一緒に居ると無言が続くけれど、高橋さんと一緒なら、旬ちゃんはずっと笑っているはずだ。
二人が一緒に居た方が、絶対にいい。
「……私は本当に大丈夫だよ。 だから旬ちゃんは、高橋さんと一緒に最高の学園祭にして?」
笑顔は作らなかった。
ううん、作れなかった。
笑いながら『大丈夫』とは言えなかった。
……本当は、凄く胸が苦しい。
全然 大丈夫じゃないのに、『大丈夫』って言ってる自分は馬鹿だと思う。
でも、そう言うしかなかった。
私は旬ちゃんを笑顔にすることは出来ない。
旬ちゃんを笑顔に出来るのは、高橋さんなんだ。