「……こんなところで何やってんだよ……」

「晃太、この馬鹿女に『お前の方が馬鹿だ』って言ってやれっ」

「あーはいはい わかったわかった。 痴話喧嘩なら人の居ないところでやりなさいな。
ネットに面白可笑しくアップされて笑いものにされるよ?」


「だけどっ……──」


「旬“ちゃん”。 頼むから問題を起こさないでくれ」

「──……っ……わかった……」



……晃太くんの『旬ちゃん呼び』が炸裂。

旬ちゃんは私を睨みつけたあと、チッと舌打ちしてから歩き出した。



「ミサ、旬に謝っておいで」

「……やだ」

「頼むよ、ミサ」


「……」



……謝りたくない。

ていうか、私が謝る必要なんてないと思う。


だから旬ちゃんのところには行きたくなかったし、何も言いたくなかった。


……でも、晃太くんが頭を下げている。

そしてそのあとに、真剣な瞳で私を見た。



「今だけでいいから、旬の隣に居てあげて」



……今だけ。

その言葉にズキッと胸が痛む。


……そう、今だけなんだ。

私たちが一緒に過ごせるのは、今だけかもしれない。



「……わかった、一緒に居る。 でも、私は絶対謝らないからね」

「それでもいいよ。 とにかく、旬と一緒に居て欲しい」

「……うん」



ニコッと笑う晃太くんに小さく手を振り、旬ちゃんを追う。


……旬ちゃんは階段を下り、中庭の方へと向かうらしい。

人波をかき分け、なんとか旬ちゃんに追いついたあと、私は旬ちゃんの制服の袖をギュッと掴んだ。


二人の間に言葉はなかったけれど、掴む手は離さずに、私たちは中庭を歩いていた。