──廊下が、静寂に包まれる。



「……何がどうなってんだ?」



意味がわからない。 と言った感じの声が、ポツリと放たれた。

だけど誰も何も答えずに、相変わらずシーンとしたままだ。



……その静寂を破ったのは、意外な人物。



「旬くんっ、まだ帰らないの?」



……透き通った綺麗な声。

私は下を向いたままだったから、その人の顔はわからなかったけれど……でも、頭の中にその人の顔は浮かんでいた。



体育館で、旬ちゃんと一緒に居た人……。

きっと今の声は、高橋 美玲さんだ。



「美玲」



……旬ちゃんが彼女のことを名前で呼んだ。

しかも呼び捨て……。


……高橋さんは旬ちゃんのことを名前で呼んでいたし、旬ちゃんもまた、高橋さんのことを名前で呼んだ。

やっぱり二人は、いい感じなんだ……。



「……」



胸がズキズキと痛む中で、マサくんの制服をギュッと掴む。

……今すぐここから離れたい。 二人が一緒に居るところを見たくない……。


そんな思いでマサくんの制服を掴んだら、マサくんは私の思いに応えてくれるかのように踵を返した。



「おい、政宗?」



旬ちゃんの声が響くけれど、マサくんは歩みを止めない。



「ちゃんと送るから心配しないで。 じゃ、また明日」



……相変わらずの柔らかい声で言ったマサくんとともに、私はその場を離れることに成功した。