呆然と立ち尽くす私に、マーくんは小さな声で話を始めた。

その顔は、やっぱり穏やかだ。



「歩夢がミサを好きだったように、俺もミサが好きだった。
俺のそばで笑ってるミサが好きだったし、ミサの力になりたいって いつも思ってた」

「……」

「歩夢がミサに告白したあと、俺は俺なりに自分の気持ちを考えてたんだ。
この先ミサと どうなっていきたいのかを、ずっとずっと考えてた」



マーくんの手が、優しく私の髪を撫でる。

その顔は穏やかでありながらも、どこか寂しそうなものへと変わっていた。



「……天秤の話、覚えてる?」

「……うん……」



──『今までのバランスを崩してしまうのが怖くて、これ以上近づけない。
崩れるとは決まってないけど、保たれるとも決まってないだろう?
だから結局、何も出来ないままここに居る。 ミサに言ったことは、全部自分に対してのものなんだよ』



マーくんの言葉が鮮明に頭に浮かぶ。

……マーくんは、私との距離が壊れてしまうことを恐れていたんだ……。


……相手は、私だったんだ。



「バランスを保つのって、崩すよりも遙かに難しいだろう? お互いがお互いのことを考えるからこそ、バランスは保たれる」

「……」

「……俺、1歩どころか5歩くらいミサに近づいたんだけどさ、それでもバランスは変わらないんだよね」


「え……?」