「川崎くん!」
教室を出ようとしていた彼を、私は呼び止めた。
彼が振り返る。
「何?」
いきなり目が合って、私はドキッとした。
二人っきりの教室で、私の心臓の鼓動は彼に届いてしまいそうだ。
私は息を吸った。
「今日、部活終わったら、楠木公園に来てくれる?」
……言えた!
言おうと思っていたことは、伝えられた。
彼の顔がほころんで、フワッと笑顔になった。
「わかった、行く」
その一言で、私の緊張はスルッとほどけた。
「ありがと」
喉から、なんの苦労もなく自然に言葉が出た。
「じゃっ」
彼は右手を挙げて、開きかけていた教室のドアを最後まで開けて、出ていった。
一人残された教室に、夕日が差し込む。
私はスクールバッグを肩に掛け、さっき彼が出ていったばかりの教室を後にした。