その日はよく晴れた日だった。
「大和、おはよう!」
「おはよ、ニノ。」

「今日やで。」
ニノは、小声でそう言ってきた。
「…ああ。分かってるよ。」

ニノはそれ以上何も言って来なかった。

朝、担任は、美優が転校することを告げた。
残念がる男子、なんともいえない表情をする女子など、反応は様々だった。

僕は、立ち上がり、

「僕、美優の所行ってきます。」

そう言うと、教室を飛び出した。
飛び出す前、一瞬見えたニノの表情は、いつもの笑顔だった。
『頑張りや』って、言ってくれた気がした。

僕は、走った。
幸い、この学校と空港は割と近い。
でも、走って間に合うか、といったら微妙だった。
だから僕は、立ち止まらず走った。

美優に、会いたい。
また、笑って欲しい。
また、抱きしめたい。
あのえくぼをまた見たい。

美優!



空港へ着いた。
探した。探しまくった。
「くそ、どこの便かわかんねぇ…!10時発の便どこだ…!」
息を切らしながら、探した。

「美優…!」


真夜中のような黒い髪が見えた。
黒髪の人なんてそこらじゅうにいるが、僕が見間違える事なんてなかった。

美優だ。

「見つけた。」

僕はそう言って、美優の手を握った。

「えっ?」

美優は振り向いて僕の顔を見ると、驚いていた。
大きな目には、もう涙が浮かんでいた。

「なんで…?」

「ニノから聞いたんだ。」
僕は一拍おいて、言った。

「ごめん。弱くてごめん。美優に甘えっぱなしでごめん。でも、僕には、美優しかいないんだ…!」

僕があの夜、やっと探しだしたのは、『初恋の人』じゃなくて、『運命の人』だった。

美優は涙をボロボロとこぼしながら、
「だって私、いやな女だよ?本当の事言わないで、大和に『飽きた』なんて言って、大和の親友と付き合った、最低な女なんだよ?」

「違う、美優は最低なんかじゃない。最低なのは僕の方だ。傷付くのが怖くて、嫌われるのが怖くて、美優の優しさ、強さにずっとずっと甘え続けていた、最低な野郎だ。
でも、僕には、美優が必要なんだ。」

「私、引っ越しちゃうんだよ?めったに会えないんだよ?私を好きになるより、こっちで他の人を好きになった方が大和はきっと幸せになれるんだよ?」

「もし、美優以外の人と付き合った未来が、どんなに明るくたって、僕には、美優しか、いないんだ。」

「遠いんだよ?すごくすごく遠い距離。」


「どこに行っても探しだすよ。世界中探す。だから、また会えたら、笑ってよ。」


美優が駆け寄ってきた。
抱きしめた。ぎゅうっと、強い強い力で。
「また、見つけてね。」
「おう、絶対探し出すから。」
「バイバイ。」
「…バイバイ…。」

美優は最後に、ニコッと笑って飛行機の搭乗口へ向かって行った。
その頬には、えくぼがあった。
あの、可愛い、えくぼがあった。