月明かりに照らされて、
えくぼのない頬が右に見える。

「…美雨…。」

「ん?」

美雨はニコッと笑い、僕の方を見た。

「美雨、ごめん。ホントは、もう、好きじゃないんだ…。」

僕は正直に言った。

すごく怒るだろう。
泣き叫ぶだろう。
と、思っていた。

美雨の口から出たのは
「わかってた。」
だった。

予想外の答えに僕は驚いた。

美雨は静かに続けた。
「私は、大和が大好きだった。愛してたわ。だから、美優があなたの隣にいた時、もう、裏切られた、って気持ちでいっぱいだった。だから、美優が他の人の所に行ったとき、本当に嬉しかったわ。
やっと、大和は私の方を向いてくれる、って。」

「でも、大和が、私の方を向いてくれる事は、なかったわね。それでも、一緒にいてくれたのは私への償いのつもりか何かだったのかしらね。」

涙を大きな目からポロポロと流し始めた。

「無理矢理笑う大和を見るたびに、私は『これでいいの?大和はこれで幸せなの?』って、ずっと思ってた。でも、何も言わなければ大和は私に優しくしてくれた。私は、ずっと大和に甘えてたの。」

「ごめんなさい、大和。
ずっと縛り続けて、ごめんなさい…。」


「違う!違うよ美雨!謝らなければいけないのは、僕だよ!
待てなくて、ごめん。好きでい続けられなくて、ごめん。ずっと、好きでいてくれて、ありがとう…。」
僕も、ボロボロと泣きながらそう言った。

「大和は、美優が大好きなのね。
私も、そのくらい愛せる人を、見つけるわ。大好き『だった』わ。ありがとう。」

美雨はそう言って、公園を出て行ってしまった。

僕は、暗い、暗い、夜の中、あの、えくぼのない頬を思い出しながら、あの、美しい笑顔を思い出しながら、ポツリ、と呟いた。

『さよなら、僕の初恋の人。』