「おはよう、大和!」
「あ、おはよう、美優。元気になってよかったね。」
「うん、ありがとう!」
美優はすっかり元気になったようで安心した。
美優に、美雨のことを話さないと…。
なんて話そうか。
美優を嫌いになることはないけど、美雨を邪険に扱うこともできない。
どうしよう。
なんてことを考えている内に1日が終わった。

「ふぁあ…。」
僕は、速目に目が覚めた。
公園に行かなければ。
2人が来るより、早く。
灰色のパーカーを羽織って、走った。
どちらも来ていなかったから、ブランコに乗って月を見ていた。
「大和ー」
美優が先に来た。
「今日は早いね!」
「…美優、会ってほしい人がいるんだ。」
僕は美優の目をまっすぐ見てそう言った。
「?」
美優は大きな目を丸くさせていた。

「…大和。」
もう一人の、美優が来た。
黒い髪も、白い肌も、長い睫毛も、全てがそっくり、ただ1つだけ、えくぼのない
美雨が。

「…美雨…。」
「ねぇ、その人だれ?」
当然の疑問を美雨がぶつけてきた。
僕は一瞬考えて、

「僕の、彼女だ。」
と言った。

美優は何かわからない、という顔をしていた。
「美優、前に話したろ?僕の、最初に、好きになった人のこと。」
「…美雨、さん?」

「アンタに呼ばれる筋合いはないわ。」

美雨が冷たく言い放った。

「美雨、落ち着けって。」
「うるさい!ねぇ何で!?私は大和に会いたくてしょうがなくて、必死に病気を治してこの町に帰ってきたのに、なんで他の人の所に行っちゃうの!?私は、ずっとずっと大和を思い続けてきたのに、大和は違うの!?」
美雨は泣いた。
叫ぶような声をあげて泣いた。

「大和。」
美優が僕を呼んだ。

「もう、いいよ。
実は私も言いたいことがあったの。
もう大和飽きちゃった。
美雨さんの所へ行って。」

嘘をついている。
嘘をつくとき、いつも美優は下唇を噛んでいる。

「おい、美優…。」
僕は美優に優しく話しかけた。

「離してよぉっ!」

美優は僕が掴んだ手を振りほどいて、走って公園を出て行ってしまった。

「美優!!」

公園には、すすり泣く美雨と、僕だけが残された。

雨が、降り出した。
僕の、嫌いな雨が。