やさしい桜色の湯飲みは、あゆみの手にしっくりと馴染んで見ているだけでほっこりとした。




「あのマグカップで飲むと、美味いんだよな、コーヒーが」




あゆみがいれたお茶をすすりながら、小林部長が言った。あゆみはもらったばかりの桜色の湯飲みに自分のぶんのお茶をそそぐ。

小林部長と向かい合ってお茶をのむのは初めてだった。




「すごくいいです、この湯飲み」




あゆみは心から言った。お世話抜きの本音だ。



「なら、よかった。実はこの旅館の土産屋で買ったんだけどな」




「え…ああ、そうなんですか」




(それって、さっき石橋さんと一緒にいたときに買ったってこと?…なんて聞けないけど…)




ほんの少しだけ複雑な気分になりながら、向かい合ったままお茶をずずっとすする。会話が途切れるとお茶を飲むので、すぐに空になった。

お茶を飲み干してから、湯飲みの中に桜の花模様が描かれていることに気付いた。あゆみがあっと声をあげると、小林部長はぷっと笑った。




「そういえば」



小林部長は思い出したように口を開いた。その表情は、少し不機嫌そうにも見える。




「お前、なんで嘘なんかついたんだ?」