「おーい!サヤ!」
部屋に入ろうとしたあゆみと宮間さんの後ろから、男の人の声がした。
宮間さんのことをサヤと呼ぶのはマツさんしかいないから、振り返らなくてもわかる。
「何よ、マツ。あんた声がデカイっつうの」
宮間さんはマツさんをちらりと見ただけで、冷たく言い放った。部屋の鍵をガチャと回す。
「なぁサヤ、ちょっと付き合えよ!」
「はぁ?なんでよ。嫌だ」
「川があるから、ちょっと散歩でもしようぜ。晩飯まで、まだ時間あるじゃん」
「散歩?!なんでマツと散歩しなきゃなんないのよ!じいさんばあさんじゃあるまいし…」
宮間さんは呆れ顔だ。あゆみがマツさんを見ると、拗ねたような残念そうな顔をしている。
「なんだよ、せっかく俺が誘ってやってんのに」
あゆみは、大浴場で宮間さんが言っていた言葉を思い出した。
『素直じゃないから、あたし』
(ちょっとくらい…いいよね?)
「あのっ!行って来て下さい、散歩!」
あゆみが言うと、宮間さんは「ええ?」と言ってあゆみを見た。
「わたしは、部屋でちょっとゆっくりしてますから!宮間さんは、お散歩してきてくださいよ!ほら、晩ご飯までに、お腹空かせておかなきゃですし!」
「ほらほら、運動です!運動!」と言いながら、部屋の中にあゆみが入り、宮間さんを押し出した。
「いってらっしゃーい!」
あゆみがわざと満面の笑みで手を振ると、宮間さんはまた呆れ顔で「仕方ない、運動してくるか」と言ってマツさんの後を追いかけた。



