応接室の扉がガチャリと開く音が聞こえると、小林があゆみの後ろを見て微笑んだ。
「おはよう、ハヤト」
あゆみは振り返った。
小林に向かってそう言ったのは、いかにも気のよさそうな初老の男性だ。丸い眼鏡に丸い顔、おまけに体つきまで丸っこい。
眼鏡の奥のたれ目は小林とあゆみを交互に眺めている。
「おはよう、周さん」
小林が言った。
周さん、ということは、面接の時に隣の部屋で仕事をしていたのはこの人だ。つまりこの眼鏡のおじさんが、この会社の社長ということだ。あゆみはぺこりと頭を下げた。
「桜庭あゆみといいます。宜しくお願いします」
「周デス、よろしく」
日本語の発音に、少し違和感があった。周という苗字は、やはり中国の周さんなのかと少し戸惑った。社長が日本人ではないということも、事前に調べてさえいればすぐにわかったはずだ。それを怠った自分が悪いとあゆみは思った。
「あゆみちゃんは、俺の補佐をやってもらうから」
小林は周さんに向かって言った。周さんはやれやれといった表情だ。
「ハヤトの好きなようにしなさい」
「ああ」
まるで父親と息子の会話のようだなとあゆみは思った。周さんが小林を見つめる目には、やんちゃな息子を見守るような優しさが滲み出ている。小林は、ぶっきらぼうな言い方で、けれどどこか周さんに甘えているように見えた。
「ハヤトは変わり者だからネ。君も気を付けないと苦労するヨ」
周さんはあゆみにそう言うと、眼鏡の奥でウインクをして見せた。



