(あのサングラスの怖い人が小林部長…?!)



エリカ様の一言で、車内がざわつく。皆の視線が一気に窓の外の黒いベンツに注がれた。




「お、やっと追いついたか」と言ったのは周さんだ。あれが小林部長だということは間違いないだろう。




エリカ様が窓の外に向かって優雅に手を振ると、黒いベンツの運転手は、す、とサングラスを外した。

一瞬、バスに向かって片手を上げて見せたかと思うと、次の瞬間にはもう黒いベンツはバスを追い越して、颯爽と走り去ってしまった。



バスの車内は大騒ぎだ。とくに若い女性社員は皆目がハートマークになって黄色い歓声をあげている。




「超カッコイイ!何あれ!」



「やっぱりイケメンは何やってもキマってるよねー」



「あの車の助手席乗りたいっ!むしろ部長に乗りた…」



「何言ってんのよ!あたしよあたし!」



「今日の夜部長の部屋に襲いに行っちゃおっかなー」



お酒が入っているからか、本気か冗談かわからない際どい台詞が飛び交っている。

合コン相手の女性陣を一気に持って行かれた若手男性社員たちは、さっきまでのムードを取り戻そうと必死だ。



「エリカ様っ!僕もベンツ持ってます!」


「あんたのは中古でしょうが!しかもあと何年ローン残ってんの!」



「あと十…ってエリカ様!そんなこと仰らずにー!」



(小林部長って、やっぱりモテるんだなぁ…。まぁあのルックスだもんね…しかも次期社長だし…)



ぼーっと車内の光景を眺めるあゆみの隣で、笹原主任もやれやれという顔で営業部の部下たちの必死っぷりを眺めている。