「へえ。意外だなぁ、桜庭さんがひとりしか付き合ったことないなんて」



笹原主任は本気で驚いてくれている。ひとりではなく実質ゼロ人です。もちろん処女です。なんて言える雰囲気ではない。




(もう、このままの設定でいくしかない…)




「中学高校と女子校だったので…。あんまり出会いもなくて」




あははとあゆみは笑ってみせた。顔が少しひきつっている。この話題はやく終わらないかなと心の中で呟く。




「女子校か。桜庭さん、お嬢さんって感じだもんな。わかるわかる」




笹原主任は、うんうんと頷いている。

女子校育ちは本当だ。だけどお嬢様かと聞かれると正確にはそうではない。

あゆみの育った地域の公立中学は当時かなり荒れていて、気弱なあゆみを心配した両親がかなり無理をして私立の女子校に入れてくれたのだ。




「今時、珍しいよな。桜庭さんみたいな女の子」




「そ…そうでしょうか…?」



「珍しいよ。なんか純粋っていうか、ピュアっていうか、裏表のない感じがね」




笹原主任はニコニコ笑っている。こんなドン引きされそうな話をしても、ニコニコ笑って褒めてくれる笹原主任はなんて優しい人だろう。あゆみは思わず感動してしまった。



「ありがとうございます。笹原主任は褒め上手ですね。なんか、みんなに慕われるのがわかります」