「災難だったね、桜庭さん」
笹原主任があゆみに言った。優しくて穏やかで、常識があって、みんなに信頼されている、好かれる上司のお手本みたいな人だなとあゆみは思った。
「大丈夫です。でも、宮間さんがあんな風に怒鳴るの初めて見ました」
「ああ、あの二人はしょっちゅうだよ。とくに社員旅行とか忘年会とかね、お酒が入るとスイッチ入っちゃうみたいなんだよなぁ。だいたい高松さんが、宮間さんに絡んで喧嘩になる。いつものパターンだよ」
笹原主任は笑った。
「仲がいいんだか、悪いんだか。長い付き合いらしいからね、僕らにはわからない何かがあるんだろうな」
「そうなんですね…」
あゆみは、静かになった後ろをそっと振り返って見た。
「あ…あれ?」
あゆみが驚いた顔をすると、宮間さんは困ったようにそっと人差し指を立て、口パクで「シーッ!」と言って見せた。
あゆみは思わず、ふふふっと笑った。
宮間さんの隣で、マツさんが宮間さんの肩にがくんと頭を預け、口をぱっくり開けて眠っている。
それも、すごく幸せそうな表情で。
宮間さんは、呆れ顔でじっと座ってマツさんに肩を貸している。
なんだか少し、あゆみはふたりを羨ましく思った。



