会社の一階部分は全て機械が置かれた加工場になっていた。

だだっ広い土地に、特殊加工された床。重量感のある金属加工の機械の数々。もちろん素人であるあゆみにはそれが何に使う機械なのかは全くわからない。

フォークリフトが何台も加工場の敷地内にそのまま出入りできるほどの広さがあり、大きな機械の影に作業着姿の社員がまるで巨人の国に来た小人たちのように働いている。



求人広告を見ただけで、会社のホームページを見ることすらせずに今この場所にいることをあゆみは少し後悔し始めていた。


残業がない、土日祝日が休みだからと言って、のんびりとした暇な会社だとは限らないじゃないか。もしかすると、繁忙期は家に帰れないようなこともあるかもしれない。

賞与年二回と言っていても、自分がそれを貰えるとはまだ決まっていないじゃないか。ブラック企業とはそういうものだとあゆみは3年半前の就職で学んだ。



「失礼します」



約束通り、三階の事務所には直接行かずに応接室の扉を叩く。ここで彼、部長である小林隼人が待っているはずだ。



「どうぞ」



色気のあるハスキーボイス。間違いなく彼の声だった。

扉を開くと同時に、応接室のソファに腰掛けていた彼と目が合った。