それからしばらく、バスが出発したあともふたりのどなり合いは続いた。
「大体、サヤがイカ焼きなんか買って来るから悪いんだろ!オッサンらだってスルメとさきイカで我慢してんじゃねーか!」
「はぁ?!イカイカうるさいわね!もうほっといてよ!あたしはあゆみちゃんと話したいんだから、アンタははやく合コンに戻んなさいよ!」
「なんだと?!このイカ女!」
「イカ男はあんたでしょ?!」
「なにぃーーー!?!」
ついに我慢できなくなったらしいマツさんが缶ビールを片手に合コン中の若手社員をかき分けて、ズンズン前に進んで来る。
「ち…ちょっと!こっち来ないでよ!この酔っ払いーー!!」
「桜庭チャン、悪いけど、その席譲ってくんねぇか?俺はコイツと話をつけなきゃ気がすまねぇから」
マツさんが、あゆみの座席の背もたれに手をかけて言った。
よく見ると、マツさんは鼻にもピアスがついている。薄くて短めの眉と茶髪の短髪が、私服で見るとかなり怖い。
「えっ…は…はぁ…」
(でもどこに移動すればいいんだろ…)
「なに勝手なこと言ってんのよアホマツ!あゆみちゃん!コイツの言う事なんか聞かなくていいからね!」
「頼むよ、桜庭チャン」
(マツさん…。こ…こわいよぅ…)



