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天気は快晴、観光バスを1台貸切にした一泊二日の社員旅行は、まさかの小林部長の遅刻によって出発前からはやくもグダグダムードが漂っていた。
「ダメだ、全然出ない」
準備を完璧にすませて貸切バスの席に着いた笹原主任は、スマホの画面を見ながら悲壮な顔つきで言った。
まだ動き始めていないバスの後部座席では、出発を待ちきれない神様の御三方と年配の職人達が、すでに缶ビールと乾き物で酒盛りを始めている。
パートのおばちゃん達は、それぞれが持参したお菓子やお茶やコーヒーを広げて盛り上がっているし、事務室の若い女性社員と営業部の男性社員、若手の職人達は、仕事中とはうってかわってまるで学生のようなノリで「キャー私服ステキですね!」とか「うぉー!彼氏いないの!?マジで!」なんて合コンのような会話が弾んでいる。
「仕方ないよ、置いて行こう。ハヤトのことだから、どうせ寝坊だヨ」
周さんが言うと、名倉部長も「そうですね、これ以上出発時間を遅らせる訳にはいかないでしょう」と頷いた。
「ったく、あの子はいつもこうなんだから!」と、普段は優しいおばあちゃんである浪岡さんも、怒り心頭である。
「ハヤトなら、後からひとりで車で来させればいいよ。運転手さん、もう出発してください」
周さんがバスの運転手に告げると、ようやく一行を乗せたバスが動き出した。



