「スミマセン、笹原主任」



あゆみが申し訳なさそうに頭を下げると、笹原主任は困ったなという表情で小さく笑った。




「どうやら小林部長はきみを独り占めしたいみたいだ。あんなに独占欲の強い人だとは知らなかったよ。あ、これは小林部長には内緒な」




笹原さんはそう言って、唇の前で人差し指を立てて見せた。





(…小林部長が、わたしを…?)





まさかまさか、ないない。





そう否定しながらも、あゆみは心の中がなんだかざわついているのを感じていた。




(…なんか、変な気分)





小林部長のマグカップにコーヒーを注ぎながらも、あゆみはどこか上の空だ。




(あっ…しまった!入れ過ぎちゃった!)



(…笹原主任が、変なこと言うから…)




社長室では小林部長が待っている。はやくコーヒーを持って行かないと叱られる。




社員旅行に参加するのはやっぱりやめようとあゆみは思った。


こんな風に変に意識してしまったらおしまいだ。あんなイケメンに好かれているなんて、変な勘違いをしたくない。それこそ、自意識過剰というものだ。



小林部長は誰にだってあんな調子だ。




あんな風に言う相手は、自分だけじゃない。パートのおばちゃん達にだって態度は同じだ。




(余計なことは、考えないようにしなきゃ…)