「あと、何か聞いておきたいことは?」
切れ長の、けれど優しそうな眼が、あゆみを見下ろしていた。
少し笑うだけで細い線のようになる彼の眼は、初めて会った相手に一瞬で心を開かせる力を持っている。この人の仕事がなんであろうと、ただ微笑むだけで人の心を動かしてしまう天性の才能が役に立たないはずはない。
あゆみは心底、彼のことを羨ましいと思った。
もしも自分にその天性の才能があったなら、少なくともこの3年半のフリーター生活は必要なかったはずだ。
「あ…ええと…服装は、どんなものを着て来れば良いでしょうか」
あゆみは恐る恐る言った。この面接室に入るまで、社内で作業着の男性以外に出会っていない。女性社員はどんな格好で働いているのだろうか。制服はあるのか、どの程度の服装が、この会社の事務員に相応しいのか全く見当もつかなかった。
「好きなものを、着て来れば良いよ」
なんだそんなことかと言いたげな表情で、彼は答えた。
「でも、そうだな…君は僕の補佐をやってもらうことになるから、僕が仕事に来るのが楽しみになるような格好をしてくれたらありがたいけど」
からかうような口調でそう言うと、彼は突然あゆみの耳元に顔を近づけて、小声でこう付け足した。
「君なら、何を着ても似合うはずだ。僕が選んだんだから」
びくんとあゆみの体が跳ねた。
この程度のことでいちいち体を硬くしてしまう、男性経験に乏しい自分がほとほと嫌になった。
こんな冗談くらい、軽くかわせないなんて。しかも相手は、超の付くイケメンだっていうのに。
彼はぷっと吹き出して、「じゃあ、楽しみにしてるよ」と言い残して面接室を後にした。



