社長室の扉をノックする。
「…桜庭です!」
扉を開けて部屋に入ると、ソファに寝転んでいた小林部長がよっこいしょと面倒くさそうに起き上がった。
(…本当に、この人いったいいつ働くんだろ。仕事できるって嘘なんじゃ…)
「磐田さんに確認取れるまで、戻って来るなって言っただろ」
冷たい口調で言われたことに、少し腹が立ってしまう。眠そうな目をこする上司に向かってあゆみは言った。
「…磐田さんに確認とれました。三時間で出来るそうです」
小林は驚いた様子で目を見開いた。
「本当に磐田さんがそう言ったのか」
「…え…は、はい」
あゆみが頷くと、小林はぶっと吹き出した。そして嬉しそうにあゆみに向かって右手を差し出した。
「驚いた。予想以上だよ」
「えっ…?」
(握手…を求められてるのかな)
あゆみはオドオドしながら小林の差し出した右手を握った。これで握手は2回目だ。やっぱりあたたかい手のひらだった。
「神様を手懐けたご褒美は、何にしようかな」
小林は、握った手をなかなか離そうとしなかった。それどころか、ゆっくりあゆみの手を引き寄せて、自分の体のすぐそばまで近づけてしまった。
(…ち…近い…。何で離してくれないのかな…)
「ご…ご褒美ですか…」
やっぱりこの人、ちょっと変だよとあゆみは思った。近すぎる距離に我慢できずに思わず後退りすると、小林はふっと笑った。



