(どうしよう…)
あゆみは図面を抱きしめて、心の中で呟いた。これを引き受けてもらわないと、社長室には戻れない。磐田さんに話を聞いてもらわないと仕事が進まない。
「あのう…」
磐田さんは機械を動かし始めると、あゆみの言葉にはそれ以上耳をかしてくれなくなってしまった。
「磐田さん!お願いだから聞いてください!」
何度も何度も呼びかける。磐田さんは見向きもしない。
(ダメだ…。本物の頑固オヤジだ…)
あゆみはため息を吐き出した。
何か話だけでも聞いてもらえる方法はないだろうか。大至急と言われているのに、無視なんかされている場合ではない。
(そういえば…)
あゆみはふと思い出し、タイトスカートのポケットの中身を探った。
「あった!」
ポケットから出て来たのは、昨日の仕事帰りに百貨店の前で渡された、割引チケットだ。
【ボーリングセンターラウンドテン!50%割引チケット(ストライク特典有り!)】
あゆみはなぜか、この手のチラシやクーポンやティッシュをひとりで何個も渡されてしまうことが多い。
昨日もまた、アルバイトらしき見るからにやる気のなさそうな男が、素知らぬ顔でなぜかあゆみにだけこのクーポンを10枚も束にして渡してきたのだ。
その時は、ボーリングに興味のないあゆみは迷惑極まりなかったのだけれど、これはもしかすると神様のお告げかもしれないとあゆみは思った。



