「周さーん!この子、雇うことにしましたから!」
面接官の男、明日からあゆみの上司となる小林隼人は振り返り、彼の後方にあるドアに向かって大声で叫んだ。
シュウさん、と呼ばれた相手の返事がドアの向こうから微かに聞こえる。どうやら「どうぞ、ご自由に」と言っているようだ。返事が微かにしか聞こえないのは機械か何かの音が煩いからで、おそらくシュウさんは、ドアの向こうでその機械を動かして仕事をしているものと思われた。
小林隼人はシュウさんの返事にふっと笑い、あゆみを改めて見詰めた。
こんなふうに男の人にじっと見詰められるのは慣れないし、相手がこんなに綺麗な顔をしていたら尚更だ。
「社長のオッケーも出たし、これで正式に採用だから。明日から頼むよ」
社長、ということは、さっき返事をしたドアの向こうのシュウさんが、この会社の社長なのだろうか。
だとしたら、社長のことを周さんと呼び、社長である人から「ご自由に」と言われるこの人は、一体どういう立場の人なんだろうとあゆみは少し不思議に思った。
肩書きは、部長となっているけれど、彼は社内にいる他の男の人のように作業着を着てはいないし、それにまだ若い。たぶん30になったばかりとか、それぐらいの年齢だろう。
「あ、はい。ありがとうございました。明日からよろしくお願いします」
あゆみはぺこりと頭を下げた。とにかく、これで正社員になれたのだ。
小さな会社ではあるけれど、のんびりした働きやすい会社に違いない。
初めて勤めた健康食品の会社は、いわゆるブラック企業だった。あんなひどい目に遭うことは、この会社ではきっとないだろう。それだけで十分だ。



