あゆみはマグカップのコーヒーを、小林が寝転がっているソファーの前のテーブルにコトンと置いた。
「小林部長、今日からこれが、部長のマイカップです」
小林は、マグカップを見て目を見開いた。
「本当に買って来たのか!?」
(ええっ…?!もしかしてあれも冗談だったの?!信じられない!!)
あゆみは言葉を失った。あり得ない。わざわざ選んで買って来たのに、ひどすぎる。
あゆみがたまらなくなって小林を睨みつけると、小林はソファーから起き上がり、テーブルに新聞を置いて目の前のマグカップをしばらくの間眺めた。
「いいじゃん、この柄」
「えっ…?」
小林が笑っていた。まるでプレゼントをもらった子どもみたいに嬉しそうに。
(こんな風に、可愛い顔もするんだ…)
あゆみはなんだか不思議な高揚感に浸っていた。小林は、マグカップを手に取って、あゆみのいれた温かいコーヒーをひとくち啜った。
「あ、美味い」
「本当ですか?」
「美味いよ、本当に」
目を細めて笑う小林を眺めながら、ほんとうになんて絵になる人なんだろうとあゆみは思った。このままこのシーンを切り取って、コーヒーのCMにできそうだ。
「もう紙コップはいらないな。ありがとう、あゆみちゃん」
どきんと胸の音が鳴った。



