(宮間さんが、いい人で良かった…)
あゆみはほっと胸を撫で下ろした。事務員にしては個性的な見た目から、話しかけにくいと思っていた。かなり若く見えていたけれど、長く勤めているということはけっこう年上なのかもしれない。
周さんと小林部長の話の他にも、おばあちゃん事務員の浪岡さんの娘さんは実はスチュワーデスだとか、美人事務員の石橋エリカさんは小林部長にベタ惚れで、他の男性社員と話すときより声のトーンが1オクターブ上がるとか、宮間さんからいろいろな情報を教えてもらいながら会社に到着した。一緒に三階までエレベーターで上がり、宮間さんはそのまま事務所へ、あゆみはまず真っ先に給湯室へと向かった。
(新しいマグカップでコーヒーをいれて、部長に飲んでもらおうっと)
少し気分がうきうきしているのは、新しいマグカップを見て部長がどんな顔をするのかが、楽しみだからなのかもしれない。
(紙コップで飲むより、何十倍も美味しいんだから)
あゆみは会社にあったインスタントコーヒーは使わずに、マグカップと一緒に持って来たドリップ式の少し高めのコーヒーを、丁寧にいれた。
(いい香りー…)
あゆみはマグカップのコーヒーを手に、社長室をノックした。
「どうぞ」
中から小林部長のハスキーボイスで返事があった。あゆみが扉を開けるとソファーに寝転がって新聞を読んでいた小林と目が合った。
「おはよう、あゆみちゃん」
「おはようございます、小林部長」



