翌朝、通勤電車に揺られていると、あゆみは電車の車内に見覚えのある顔を見つけた。



(えっと…あれはたしか…)



あゆみが名前を思い出すうちに、相手のほうがあゆみに気がついたらしかった。



「あ、桜庭さん」



ヘッドフォンを外してあゆみのそばに寄って話しかけてくれたのは、ショートカットの日焼け顔。朝から爽やかな笑顔が眩しい。



「宮間さん、ですよね。おはようございます」



「名前、覚えてくれたんだ。嬉しいな。電車、同じだったのね」



(デニムとヘッドフォン、似合うなぁ。リュックもなんかお洒落だし)



あゆみは思わず見とれてしまった。自分はというと、今日も地味なブラウスに膝丈のタイトスカート。パンプスのヒールはもちろん3センチだ。



「あの部長、変人だから大変でしょ?ていうかウチの会社、変な奴ばっかだけどね。あたしも含めて」



宮間さんはははっと笑った。あゆみは何と返したら良いかわからず、とりあえず一緒に笑ってみる。



「あたしは、桜庭さんのライバルじゃないから安心して。なんか桜庭さん、やたらと睨まれてるみたいだからさ。意地悪な女子になんかされたら、すぐにあたしに言いに来なよ」


(意地悪な女子って…事務所のひとたちのことかな…。睨まれてるって…)



「あ、ゴメン、びびらせちゃった?大丈夫大丈夫!なんかあったらあたしがガツンと言ってあげるから!なんせ桜庭さん、あの小林部長に付いちゃったからね。災難だよね」



宮間さんは、軽い調子で笑い飛ばした。