にやりと笑いながら、面接官の男は言った。

「明日から君に補佐してもらう、部長の小林隼人です。よろしく」


立ち上がり、すっと右手を差し出して、握手を求められる。背が高い。180センチはありそうだ。

そういえば、募集要項に部長補佐と書いてあったかもしれないと思い出した。


「あ、はい…。こちらこそよろしくお願いします」


意外にも、暖かい手のひらだった。
あゆみの手よりも一回り以上大きくて、所々かたく皮が厚くなっている。

スマートな印象の顔からは想像もつかないような、まるで何かの職人さんみたいな手だなとあゆみは思った。




『この会社を退職した理由は?』


履歴書の職歴には、新卒で初めて勤めた会社を一年足らずで辞めたことが書かれていた。
面接で小林にそう尋ねられて、あゆみは正直に、「わたしの体力と精神力が足りませんでした」と答えた。

「売上に貢献できなくて…ノルマを達成できない月が続きました。わたしの努力不足だと思います」



「金属加工に興味は?」



探るような目で尋ねられたときも、あゆみは正直に、特に興味はありませんと答えた。

面接に来るまでは、それを聞かれたら興味がありますと答えるつもりだったけれど、土壇場でなぜか怖くなってしまった。

過剰に自分をアピールすると、後で痛い目に合うことは、初めての就職で学んだことだ。

過剰にアピールをして期待外れだと思われるくらいなら、はじめから落としてもらったほうがいい。


「君は正直だな」


綺麗な顔が失笑で少し歪んでいた。
悪いことをしたかなとあゆみは少しだけ後悔した。やる気がない訳ではない。仕事はきちんとするつもりだ。
ただ、金属加工に興味があるかと言われると、やはりないと答えるしかなかった。