(ど…どうしよう…社長室って、どういうこと?)
小林は、扉の前に呆然と立ち尽くすあゆみを見てふっと笑い、コンコンと社長室の扉をノックした。
「周さん、入るよー」
返事を待たずに扉を開けると、二十畳あるかないかの部屋の奥に、どっしりと立派なデスクがあり、そこに作業着姿の周さんが座って何かのファイルを開いていた。老眼鏡を少しずらして、首にかけた丸い眼鏡をかけ直し、こちらを見る。
「ああ、ハヤトか」
小林の後ろでオドオドしていたあゆみは周さんに頭を下げた。
「主要なところには挨拶してきたよ」
「そうか」
周さんはぱたんと読んでいたファイルを閉じた。
「いろいろと、驚いたかい?」
周さんは優しい笑みを浮かべながらあゆみに言った。
「あ…ええと…はい…」
(あ、言っちゃった。失礼だったかな…でも驚いたのは本当だし…)
あゆみが言うと、周さんは、小林と目を合わせて笑った。
「ハヤトの言った通りだ。きみは正直者だネ」
周さんは、周さんのデスクの隣にある、周さんのものより一回り小さなデスクを指差した。
「今日からここが、君のデスクだ」
「えっ…」
あゆみは耳を疑った。周さんの指差したデスクには、書類やファイルや何かの資料が山のように積み重なっている。いまにも雪崩をおこしそうなそれらの下に、畳んだノートパソコンが一台、顔を覗かせていた。



