「あと、奥にいるのは営業部主任の笹原くんと、経理部長の名倉さん」



小林が、デスクが並ぶ3つの島の一番奥に座っているふたりの男性社員を指して言った。



「どうも」と座ったまま軽く会釈をしたのは笹原くんと呼ばれた若い男性社員で、シャツにネクタイを締めた上から作業着のジャケットを羽織っている。

彼も小林と同様にイケメンと呼ばれる部類の男性で、どちらかというとかわいらしいタイプのイケメンだ。くりくりとした目が子犬を連想させた。あゆみは笹原にぺこりと頭を下げた。



名倉さんと呼ばれた男性社員は、中年で細身のメガネをかけた男性だった。グレーのスーツに小豆色のネクタイ、紺のベストにはアーガイルの刺繍が入っている。物静かで、頭がかなり良さそうだとあゆみは思った。経理部長というのも彼のルックスにぴったりだ。



彼もまた、椅子に座ったまま軽くあゆみに会釈した。



「さぁ、それじゃあそろそろあゆみちゃんのデスクに案内するよ」



小林は、そう言って扉の前に立ち、あゆみに向かって手招きをした。



「えっ…この部屋じゃないんですか…?」



「違うよ、俺たちの仕事場はあっち」



小林は、事務所の向かいの扉を指差した。


扉の上には、社長室と書かれている。



「…っ…ええっ?!」


あゆみは訳がわからなかった。事務所の女性社員たちがうらめしそうにあゆみを睨みつけているのをあゆみは背中で感じていた。