「それから…と、生産管理事務のリーダーは…あれっ?浪岡さんは?」



小林は事務所をキョロキョロと見回した。


「はいはい、なんですか?新人さんにお茶でもと思ってねぇ…」



何やらお喋りしながら給湯室らしき所からエプロンで手を拭きながら出てきたのは、腰の曲がった優しそうなおばあさん。小林は、おばあさんに向かって「ああ浪岡さん、そこにいたのか」と言った。




「浪岡さん、新しい事務員の桜庭あゆみさん。俺の補佐をしてもらうから、いろいろ教えてやって」



このおばあさんが、生産管理事務のリーダーなの?とあゆみは驚きが隠せなかった。腰の曲がったエプロン姿の事務員なんて、見たことも聞いたこともない。



「さ…桜庭です。よろしくお願いします」


あゆみが頭を下げると、浪岡さんはにこっと笑った。本当に、優しそうなおばあさんだ。



「浪岡さんは、検査のプロフェッショナルなんだ。神様たちも、浪岡さんのいうことなら何でも聞く。急ぎの仕事も対応するのがうちのモットーでね。納期管理には、浪岡さんは不可欠なんだ」



小林は、「ねっ、浪岡さん」と誰もがうっとりするようなイケメンスマイルで、おばあさん、ではなくリーダーの浪岡さんの細い肩を、まるで男友達や家族にそうするようにぎゅっと抱いた。


「あんたちょいと、痛いよ!年寄りはいたわるもんだろうがバカタレが!」


浪岡さんは、小林に向かって言った。小林は「ごめんごめん」と笑っている。


やっぱり、ちょっと変な会社だなとあゆみは思った。けれど不思議と、嫌な気持ちはしなかった。