「じゃあ、そういう訳で、明日からさっそく来てくれる?」



白いテーブルを挟んで真向かいに座った、嫌味なくらい鼻筋の通った男が言った。

妙に色気のあるハスキーボイスだけでなく、切れ長の目も形良く尖った顎も、時折見せる優しそうな笑顔は特に…
女なら誰もが溜め息を漏らしてしまいそうな、文句のつけようがないイケメンだ。




(え…採用…ってことでいいのかな…?絶対ダメだと思ったのに…、奇跡…?)



事実、このたった30分程度の面接の間だけであゆみは既に三回も、彼の顔に見惚れてしまったせいでまともな返答ができなかった。



例えば、あゆみが初めて正社員として就職した健康食品の販売会社にもしこの男が働いていたとしたら、お年寄りやお金持ちの奥様相手にいくらでも商品を買わせることができただろうし、あゆみのようにノルマを達成できずに毎月大量の健康食品を自分で購入する必要なんてなかったはずだ。



何十種類ものサプリメント、ドリンク、ダイエット食品。
おかげで健康になれたなら良かったが、度重なるサービス残業と、研修という名の休日出勤で、気付けば体も心もボロボロになっていた。


会社を辞めて、生活費のためにアルバイトを掛け持ちした。
3年半の月日はあっという間で、新卒のフレッシュな正社員だったあゆみは、いつの間にか26歳になっていた。




「あ…ありがとうございます!」



何年かぶりに箪笥の奥から引っ張り出したリクルートスーツ。


正社員なら仕事は何でも良かった。


賞与があって、有給休暇がある。
土日祝がお休みで、残業もほとんどない。
そんな普通の、のんびりした会社に勤めたかった。



「あ、ひとつ言い忘れてた」