ヤスリを使って完成した品物の切り口を滑らかにしていく。金属粉で汚れるし、時には怪我をすることだってあるけれど
、ここにアルバイトに来てから何度もやっている仕事。手つきだってもう慣れたもんだ。



「フンフンフーン…」



陽気に鼻歌なんか歌いながら、丁寧にバリを取っていく。小林さんや中国人の周さんが、俺の近くを通るたびに「おっ、上手いなぁ。いい職人になるぞ」なんておだててくれるもんだから、より一層丁寧に仕事しなきゃなぁという気になって、ついつい張り切ってしまう。




「高松くん、おはよ」




背後から聞こえる天使のような可愛い声。これはもう、彼女に間違いない。俺は満面の笑みで振り返る。





「沙耶ちゃん!お…おはよう!」




俺が言うと、彼女があれっという顔をした。


しまった。一瞬フリーズしてしまう俺。


彼女の名前は宮間沙耶。


俺は彼女を宮間さんとしか呼んだことがないのだけれど、妄想の中で彼女とデートやら色んなことをし過ぎたために(そりゃもう人には言えないようなことまで…)一度も呼んだこともない下の名前を軽々しく呼んでしまったのだ。


これはまずい。絶対変に思われた。