「嘘ばかりついてたら、いい加減バレちゃいますよ!あと、豆柴くんはやめて下さいって何度も言ってるじゃないですか!」
「仕方ないだろ、似てるんだから」
「仕方なくないですよっ!わたしには、桜庭あゆみというちゃんとした名前があるんです!」
「そんな名前より豆柴くんのほうがよっぽど似合ってると思うけど」
「嫌です!そんな名前って…人の名前バカにするなんて最低ですよ?!」
あゆみは、はぁはぁと肩で息をしている。小林部長はそれを楽しそうに眺めながら、ソファーで紙コップのコーヒーを飲んでいる。
「そんなことよりさ、」
「そんなこと?!怒りますよほんとに!」
「あゆみが選んでくれたマグカップ、また同じの買ってきてくれない?」
(…いま、あゆみって言った…?)
「…あの…、いま、何て…」
「マグカップだよ、マグカップ。やっぱりさ、紙コップじゃすぐコーヒー冷めるし、うまくないんだよな」
「いや…あの、そうじゃなくて…」
あゆみはしどろもどろになっている。小林部長は飲み終えた紙コップを、くしゃりと潰した。
「マグカップ選んでよ、あゆみ」
小林部長は、まっすぐに、あゆみを見詰める。
真っ赤な顔で、あゆみは小さくハイと頷いた。
◇完◇



