「小林部長、お電話です。SSベアリングの典山さんからです。どうしますか?」




あゆみは事務所の電話の子機を片手に、図面の入ったファイルとにらめっこしながら小林部長に言った。




小林部長は、声を出さずに顔の前で手をひらひらとさせた。「でたくない」というジェスチャーだ。




あゆみは溜め息を吐き出して、もはやパターン化している言い訳の中で適当なものを選び出す。




「小林はただ今外出しております。 …はい、高速道路を運転中だと思いますので…出られないかと…はい、申し訳ありません。納期は折り返しお電話させていただきますので…はい…」





あゆみが電話に向かって頭をペコペコと下げているのを眺めながら、小林部長はくっくっくと笑いをこらえている。




(笑うなんてひどい!こっちは必死なのに!)



ようやく電話をきったあゆみに、小林部長は言った。




「嘘がうまくなったな、豆柴くん」